コミティア148(2024/5/26)で入手した本

恒例コミティアの個人的まとめ記事。今回からタイトルをシンプルにしました(前回まではこちらから→https://ryokageyama.com/blog/category/series/comitia/)。「Push&Review」にも投稿しているため現在発売中の『ティアズマガジン149』およびwebでもコメントが読めます。それぞれ後半部分は投稿用のレビューです。今回は自分もサークル参加していたのでゆっくり見て回る余裕はありませんでしたが、事前にチェックしていたものだけでもそれなりの数があり、10点選ぶのには苦労しませんでした。

池袋不敗/井戸畑机/関野葵/なか憲人/とまみーと/津村根央(著)、風見2(表紙)、ふぢのやまい(編)『リサショのつどい』(眠くて死にそうな城)

とても良い本。こんなにコンセプトがしっかりしていて統一感のある合同誌というのはなかなか無い気がします。レンチキュラー印刷の表紙も楽しいです。その辺に置いておくとこちらの動きに合わせて視界の隅で絵が変化するので、野生のディスプレイのようでギョッとすることもしばしば。

先日のトークイベントも楽しかったです。みなさん口々に「集め始めるとキリがない」とおっしゃっており、溢れすぎないようにそれぞれのルールや基準があるのが良いなと思いました(自分はグッズ的なものにはほぼ手を出さないようにしているのですが……)。イベントは8/26まで配信が視聴できるようです。

リサイクルショップでの体験やそこで出会った品にまつわるマンガ/エッセイ等を集めた本。個性豊かな執筆陣ながら、全体のトーンには統一感がある。どの作品も、趣味的な熱量とテーマに相応しい気楽さが両立していて心地よい。名前のない「もの」たちと戯れる術を知っていることを、人は「文化」と呼ぶに違いない。

西日『Mr. フィクション』(5階西向き)

コミティア147で準備号(作品の前半部分)を読んで面白かったので入手。シュールなコメディっぽく始まりつつ中盤からはサスペンスフル。キレのある素晴らしい短編です。

「実家の父が趣味の陶芸で作った置き物が勝手に動く。」それは主人公の見た幻覚なのか? ユーモラスな奇譚のように始まった物語は予想外の展開をたどり、現実と「フィクション」の境界は次第に失われていく。魅力的な導入と静かな筆致に引き込まれ、巧みな構成に惑わされる。読み応えのある1冊。

クドウナナコ『さもありなん』(クドウナナコ)

カラーの表紙もユニークで面白いのですが、中のマンガの線画がすごく良いです。

フィクションにもエッセイにも見える、不思議な4コマ形式のマンガ。妙に密度のある線画と奇想的なイメージが溢れる画面には現実離れした印象を受けるが、作品の基調はエッセイ的なユーモアにあるようだ。絵の迫力と、主人公の思考の面白さ。一粒で二度美味しい。

にせ犬『にせ犬』(にせ犬)

コミティアの醍醐味、面白コピー本。次回も続編が出るようです。前作(といっても繋がりはない)の『にせ犬との旅』を持っているのは密かな自慢。

友人から送られてきた荷物の中身は「にせ犬」だった。犬のようで犬でない謎の生き物との奇妙な共同生活が始まる。写真による背景とシンプルな線画を組み合わせた画面は不気味なムードを醸し出している。たしかに「にせ犬」は冷静に考えると絶対に犬ではないのだが、犬っぽく見えるあたりが可笑しい。とはいえ実際の犬もさほど注意して見てきた自信はなく、案外こんなものかもしれないなと思うと、少しだけ怖くなる。

うし『報酬』(東の丘が見える)

お馴染みのうしさんの新作。マンガ的な良さはそのままに、今回はこれまでよりもエンタメ感が増している気がしました。愉快な作品でとても嬉しいです。

前半は夢、後半は現実の本編12p。いかにも夢らしい愉快な夢のあと、現実らしい現実を受け入れる爽やかな展開が印象的。おまけに最後にはマンガ的なオチもあり、楽しい構成だ。マンガとしての魅力に溢れた描写と冷静かつユニークな思考の流れは健在ながら、これまで以上にエンタメ性が感じられる。「起きて戦えっつーこと」かもしれない。

朝日奈麦『ニュータウンサテライツ』(たねまき)

こちらもお馴染み朝日奈麦さんの新刊。画面の随所にさりげない工夫や趣向があり、毎回楽しみにしています。

宇宙にも自治会はあるらしい。本星の周囲を回る5つの衛星の代表者が集まる会議では、恒例行事の内容やケータリングについて議論が交わされる。SF的な設定と議題のギャップが痛快だ。様々な場面で使われる曲線的なコマ割りも面白い。時間の経過や会議の混乱を示すように見えるカーブは、日常的な会話劇に宇宙的なムードを与えている。

横山陸渡『river’s kids』(ラジコン)

前作『好きなもの』に続いて入手。絵が爽やかで魅力的。

川を舞台とした2つの短編を収録。どちらも細かな線を重ねた風景描写が目を引く。特に後半の「奥多摩へ行こう!」は個性的なキャラクターたちがところせましと駆け回り、賑やかで楽しい。その中で一人乗り切れない主人公にも好感が持てる。絵にも展開にも勢いがあり、ラストは飛び抜けてポジティブ。夏の川に相応しい、爽やかな1冊だ。

オベチミミ/清水コンロ『特別な日』(unpakaland)

147でのコピー本が面白かった作家さんの新刊。コピー本はエッセイ風の内容だったのですが、今回は完全にフィクション。楽しいマンガです。

慣れない高級店でディナーをいただく「ネコ人間」と「ウサギ人間」。一方厨房では何かと問題が発生、コース提供は一筋縄ではいかず……。可愛らしいキャラクターたちが繰り広げるドタバタコメディ。食事のマナーをめぐるあれこれから大騒動までスピーディな展開が楽しい。豊かな表情も魅力的で、同じキャラの別エピソードも読みたくなる。

タママ八月『エピローグで息をした』(Coo…)

twitterで見かけて気になった作品。とにかく画面がかっこいい。

恋人を失った主人公の元に死神が現れる。自らも死ぬ運命なのだと考えるが……。スマートな構成と最小限の説明で意外な事実が明かされていく。一方でアクションに次ぐアクションのマンガでもあり、終始画面がかっこいい。構図、ポーズ、線の勢い、すべてがキマっており、画面の躍動感だけでもずっと見ていられるほどの完成度。

鈴木淳也『大友克洋全集解説 4 さよならにっぽん』(大友克洋研究)

お馴染み大友克洋全集解説シリーズ。コミティアの度にきちんと1冊ずつ新刊を出されており、ペースが安定していてすごいです。よく考えるとこの後『AKIRA』関連の巻が大量に来そうですが、どうなるのでしょう(絵コンテの解説とレイアウト・原画の解説って分けられるのか?)。

全集に対応した大友克洋作品解説シリーズの5冊目。初出誌を中心とした資料と作家本人を含む関係者への聞き取りに基づく情報量には、いつも通り圧倒される。特に近刊では制作にあたって参照したと思われる映画や書籍の紹介が楽しい。1970年代末という時代における大友の位置がうかがえ、当時を知らない読者にとって新鮮だ。