9/3(日)のコミティア145に向けて、144で入手した本をまとめておく回

9/3(日)に東京ビッグサイトでコミティア145が開催されます。今回はコロナ禍以降に行われていた入場手続きが無くなり、以前のようにティアズマガジン(カタログ)本体を提示する形に戻るようです。正直なところ小さな引換券だけ持っていけば良いリストバンド方式の方が楽だった気もするのですが、きっとコスト面など事情があるのでしょう。今回は『一連』の参加も無く、特に私から宣伝するようなものはありません。純粋に本を買いに行くだけのコミティアは久しぶりのような気がします。

早いもので前回5/5のコミティア144から4ヶ月が経過してしまいました。イベントで買った同人誌というのはその後すぐ大まかに読むものの、しっかり腰を据えて読んだり感想を書いたりしようと思うとなかなか手につかないものです。なんとなく次のコミティアまでにはと思っているうちに完全に夏休みの宿題状態となっていたわけですが、今回のコミティアで自分が欲しいものをまとめることにもなるので、気合いを入れて書いてみます(結局9/3当日の公開になっていますが……)。基本的に144での新刊をメインに紹介します。見出しのカッコ内はサークル名です。

津村根央『スリー・グッド・ドルフィンズ WANTED』ほか(惰眠野郎ファイナル)

twitterでたまたま見かけ、前回のコミティアでまず欲しかったマンガ。「グッド」「グッド」と呟く3匹のイルカによるシリーズの1つのようですが、洗練されたデザイン的画面とチャーミングなストーリーがすこぶる愉快な作品です。

その他その場にあった既刊も一通り入手しました。なかでもひょんなことから懐かれたペンギンたちを故郷に帰す(?)『帰郷』というマンガがとても面白かったです。

作者の津村根央さんは先日、祥伝社のデジタルコミック誌『FEEL FREE』で「胡孫町役場観光課巨大ガニ捏造事件」という読み切りを発表された模様。でっち上げの巨大ガニ伝説で村おこしを目論むコメディですが、期待通りの痛快なクライマックスの後に素敵なオチが待っており、こちらも非常に面白かったです。今回のコミティアでも『スリー・グッド・ドルフィンズ』の新作が出るようなので楽しみにしています。

辛希亞/タナカミホ/峱峱/冬野『ひなみ記』

2021年に読んだマンガ単行本のなかで個人的に最も好きだった『空飛ぶ馬』の作者タナカミホさんの合同誌。タナカミホさんのマンガ2本と峱峱(ナオナオ)さんのマンガに加え、辛希亞(シンシア)さんと冬野(フユノ)さんは言葉が添えられた詩的な連作イラスト作品を寄せています。それぞれの作家さんの個性が楽しく、同時に全体的なトーンにも統一感があってとても素敵な本です。

峱峱さんの作品は視点の取り方が常に面白く、画面構成も大胆で、短編ながら非常に読み応えがありました。台湾で出版された『守娘』という作品の邦訳がつい先日出たとのことで、こちらもぜひ読んでみたいです。

そしてやはりタナカミホさんの作品、2本とも素晴らしかったです。わずか数ページで、不安や切なさから希望やユーモアへと気分が転換する瞬間が、見事なトーンワーク(的表現)とともに描き出されています。本当にちょっとしたことでも気分は変わりうるのだと信じさせてくれる、稀有な作家さんだと改めて感じました。

どつみつこ『宙の入り江』(20Ca)

144の当日に表紙や装丁に惹かれて入手した、どつみつこさんによるマンガ。2までで完結しています。

内容はもちろん装丁・デザインまでこだわりを感じる丁寧な作りの本で、手に取ると一層完成度の高さが感じられます。離島での出会いから展開される地に足のついた確かな人間ドラマに加え、自然の風景や台風による風雨の描写に迫力があり、ボリュームも含めて非常に満足感のある作品です。

おかだきりん『虎之町龍害対策部活動報告書』(鳩殴り本舗)

2020年のおそらくコミティア131で『進め!オカルト研究部』を読んで以来、楽しみにしているおかだきりんさんの新刊。

やはりコミティアに出るべくして出ていると感じられる作風で、好みです。とにかく話が早く、湿っぽさがなく、描きたいシーンが明確という三拍子揃った痛快作。今回も参加されるようなので楽しみです。

『超宇宙怪奇現象大活劇オカルティック★コズミック』(bossanism)

痛快バディものという点では、1つ前の作品にも近いところがあるかもしれません。話が早く、湿っぽくなく、描きたいシーンが明確という良さも共通しています。どうも私、SF風味のバディものってかなり好きかもしれません。『メン・イン・ブラック』とか。

マンガ:コルシカ/原作・監修:大林寛『新版 学習まんが アフォーダンス』

「アフォーダンス」概念を解説する「学習まんが」という、かなり変わった本。2015年に刊行された初版に少しだけ変更を加えた「新版」とのこと。冒頭など大城のぼる『火星探検』(1940)などを意識しているのではと思いましたが、コルシカさんのプロフィールには「昭和初期の教養まんがファン」とあり、もっとマニアックな参照元があるのかもしれません。いずれにせよ、戦前の児童マンガにおける「博士」や「発明」の存在感の大きさというのは非常に面白い問題です。ちなみに、あわせて入手した既刊『6次元人間とピーナツバタークッキーのつくりかた』は、驚くべきことに本当にタイトル通りの内容で、大傑作でした。

ちょめ『混信』ほか(室外機室)

ティアマガのFRONTVIEWコーナーで知り、既刊を一通り入手した作家さん。

どの作品も少し怖くて不思議な都市伝説的アイデアを圧倒的なマンガ力で描き切っていて、感銘を受けました。特に『混信』は、ラジオから流れる語りが紙面のかなりの部分を占拠するという実験的にも思える表現にもかかわらず、読みやすく引き込まれる短編として完成していてすごいです。ストーリー構成の巧さだけでなく、絵の魅力と画面構成の面白さで読ませるような作り方に、マンガへの信頼を感じて嬉しくなりました。今回は新刊があるようなので、楽しみにしています。

げそにんちゃん書肆喫茶mori『漫海 vol. 3』

海外マンガ紹介者のげそにんちゃんさんと、大阪にある海外マンガブックカフェの書肆喫茶moriさんによる海外漫画情報誌『漫海』の第3号。

日本語で読むことが難しい情報が盛りだくさんで、大変ありがたい雑誌。フランスにおける日本マンガの展開や日本マンガ的なスタイルの作品制作を行う出版社Ki-oon(キューン)のキム・ブデンさんのインタビューが特に面白かったです。台湾や香港のマンガも気になりました。一方、これは海外マンガについて常々思うのですが、内容に興味を持てば持つほど、翻訳や本の価格など内容以前のハードルを実感してしまうところもあります。出版が盛り上がってアクセスしやすくなることを期待します。

鈴木淳也『大友克洋全集解説 8 童夢』

大友克洋研究の第一人者・鈴木淳也さんによる、全集に対応した作品解説シリーズの第1弾。

大友の衝撃を象徴する作品としてしばしば挙げられる「童夢」の成立過程、反響、作品発表後の展開等について詳細に記述されています。一家に一冊とりあえず持っておくと非常に便利な資料性の高い本です。今回のコミティアでは第2弾『大友克洋全集解説 1 銃声』が出るようで、揃えていきたいと思います。

おわりに

やはりコミティアには面白いマンガがたくさんあります。というか、そもそも私はコミティアっぽいマンガ(というのはおそらくマンガ史的に言えばいわゆるニューウェーブをいくらかポップ寄りにしつつオタク的感性を交えたり交えなかったりするというラインだと思います)が好きなので、必然的にそういうことになります。もちろん、実際のコミティアは意外とコミティアっぽくないマンガもたくさんあって、それもまた面白いです。さらに言えば、マンガと同じくらいイラスト本やグッズ的なものを出すサークルも充実しているので、かなり広い意味で「ポップな絵」に関心があれば楽しめる場所ではないかという気もします。では。