2/25(日)のコミティア147に向けて、146で入手した本をまとめておく回

前回→12/3(日)のコミティア146に向けて、145で入手した本をまとめておく回
前々回→9/3(日)のコミティア145に向けて、144で入手した本をまとめておく回

ちゃんと恒例になってきたコミティアの個人的まとめ記事。今回はコミティアが公式に募集している「Push&Review」にも投稿していました。現在発売中の『ティアズマガジン147』にも一部掲載されており、こちらでも全コメントが公開されていますが、せっかくなのでやはり記事にもしておきます。それぞれ後半部分は投稿用のレビューなので文体がちょっと変わっています。

うし『鍋の日』『全くに凪いでいる』(東の丘が見える)

新刊『鍋の日』と既刊『全くに凪いでいる』の2冊。落ち着いたトーンでさりげない出来事を描きつつ、常に間合いが良くてすごいマンガです。

冬の日のスーパーマーケット、2組の家族。大人たちは生活のために動き、免許を持たない高校生たちは異国へと想いを馳せる。ささやかな非日常を介して両者が出会うラストシーンの鍋は、ドライな線によるクールな画面で描かれた冬の空気感のなかに、温かな余韻を残していく。(『鍋の日』)

絵な子『REST BRIDGE』(KONGARI PENGUIN)

前回のコミティア146で出会ったマンガの中で最も痛快だった「秘境冒険探検記」シリーズの最新作が収録されているとのことで入手。相変わらず楽しいマンガで、良い気分になりました。

天才小説家の少年とうさぎの冒険譚「秘境冒険探検記」と魔女見習いのドタバタ劇「魔女のジョマ」、2シリーズの最新作を収録。気ままなキャラクターが繰り広げる自由奔放な展開が楽しい。のみならず、特に「探検記」にはどこか朗らかなペーソスがあり、可笑しいのにグッとくる。

大門可画『辺地より』(おひるねしょ糖)

作品冒頭のゆるいムードに惹かれて手に取りました。最後まで読むと決してゆるいだけではなく、「辺地」での暮らしのなかで浮かび上がる「生命」への意識が描かれていて、妙な凄みがあります。

自然に囲まれた「辺地」に暮らす主人公の日常をエッセイ風に描く。可愛らしいテンの姿と共に始まったマンガは、死にゆく昆虫で閉じられる。他の住民の描写を最小限にすることで浮かび上がる、人間とは異なる生物のライフサイクル。一見素朴なようで洗練された描線が印象的。

おかだきりん『魔法使いのいない部屋』(鳩殴り本舗)

ここのところ毎度新刊を入手しているのですが、今回は特に刺さりました。良いマンガを読めるのは嬉しいことだと、本当に思います。

世界に対してあまりにも大きな役割を与えられてしまった「魔法使い」を、その重荷から解放するための物語。確かな演出に支えられた真摯で現代的なナラティブが胸を打つ。とりわけクライマックスの見開き6コマ、些細なアクションのなかに技巧と詩情が詰め込まれている。圧巻。

津村根央『スリー・グッド・ドルフィンズ ホーリー・ナイト』(惰眠野郎ファイナル)

自分の中ではすっかり恒例となった津村根央さんの『スリー・グッド・ドルフィンズ』新刊。シュールでかわいい、のですが、そう簡単に一筋縄ではいかないぞという面白さがあります。

「グッド」「グッド」と呟く3匹のイルカによるシリーズの最新作。洗練されたポップな画面に見惚れていると、不意にカルト映画めいた場面が現れてヒヤリとする。愉快な遊び心と高度なセンスが見事に両立した作品。前回に続いて登場のバッド・シャーク(推定)もチャーミング。

什器『クワトロペッドオンザヒル』(旋回橋構造)

今回手に入れたなかで(というかこれまでで)最も変な本でした。こういう本に出会えるのもコミティアの醍醐味ですね。

佇まいからして異様な本。紙を貼り合わせた表紙、片面印刷二つ折りの本文、ペーパーファスナー綴じで、見たことのない仕上がり。陸に乗り上げて自重で動けなくなった消波ブロックAIを救助するという内容も異様なら、幾何学的な画面も異様。なのにマンガは読みやすく面白い。驚嘆。

『はじめて生きたから』(ガタンココン)

不思議な佇まいに惹かれました。内容も独特で引き込まれます。読んだ人の感想を聞いてみたい。

どこかこの世のものではないような、違和感のある人物たちを描く4つの短編。あたかも物語にとって決定的な情報が欠けているかのようなもどかしさと、にもかかわらず明らかに何らかの感情的な瞬間が描かれているという確信が両立する。奇妙で病みつきになる読み味。

坂本奈緒『シダノワ』(坂本印)

絵が上手すぎてそれだけでも読めてしまうのですが、全体の構成から定型的なコマ割りによるテンポ感まで、とにかくリズムが良くて楽しいマンガです。

言葉を話す動物と人間が当然のように共存する世界。動物たちの存在はどこか謎めきつつ、物語は小さな出来事を丁寧に拾い上げてゆく。各ページを四段に等分する画面構成が印象的。横長の難しいコマをものともしない恐るべき構図センスと、魅力的なタッチに引き込まれる。

いぬい縫『リメンバー・フォゲット』(かしこみ書房)

事前に全く情報を得ていなかったのですが、当日開かれた状態で置かれた見本誌が目に止まり、ピンと来ました。気楽に読める楽しいマンガながら、とにかく完成度が高いです。

フォントの種類は覚えられるが人の名前はさっぱりの美大生・澤村と、バイト先の気さくな同僚・安藤。2人のゆるやかな関係が、ほんのりコミカルに、けれど確かな筆致で描かれる。魅力的なキャラクター、展開のテンポと緩急、細かな表情のうまさ、どこをとっても一級の素敵な作品。

ちょめ『PC > C: > Users > 01 > zatta』(室外機室)

なるほど今度はこうきたか、となりました。こういったアイデアのある作品をコンスタントに出し続けるというのは、尋常ではないことだと思います。

いつも使っているPCに、不思議な新機能を見つけた主人公。少しずつ機能を試していくうちに、不穏なムードが漂い始める。不安と焦り、加速するサスペンス。不穏さのピークで突如物語は終わり、本全体の仕掛けにあっと驚く。とにかく読んでみてほしい、見事な1冊。

朝日奈麦『ボタニカルラヴァー/ほうせんか』(たねまき)

今回読んだ中では1番重めの内容かもしれません。とはいえ最後には不思議な晴れやかさもあって、良いマンガです。

庭のほうせんかの世話が日課の小学生・洸。家庭環境の違いから生じる周囲との齟齬、学校空間の閉塞感、両親の関係に対する自責の念。ヒリヒリとしたドラマが、どこか不穏な背景とともに丹念に描かれる。必死に抑えてきたものが決壊するようなクライマックスの後、確かな救いが用意されていることに心から安堵する。身を切るような切実さに、心動かされる作品。