コミティア149(2024/8/18)で入手した本

恒例コミティアの個人的まとめ記事(前回まではこちらから→https://ryokageyama.com/blog/category/series/comitia/)。「Push&Review」にも投稿しているため『ティアズマガジン150』およびwebでもコメントが読めます。それぞれ後半部分は投稿用のレビューです。今回は割としっかりカタログをチェックして色々と回れたこともあり、すべてこれまで紹介したことのない作家/サークルさんから選びました。

それにしても明日のコミティア150は40周年ということで大変なことになりそう。あの人が出るんですか!?みたいな情報をかなり見ました。カタログの前売りも厳しめだったようで、珍しく早めに買っておいてよかったです。

淋そそぐ『目の縁、溢れた魚』(PONUNF)

Push&Reviewで初めて「傑作」と書いた気がします。そういうタイプの作品です。コマとコマのつながりが常に見事で滑らかさと緊張感が同居しており、少しも目が離せません。明日の新刊も欲しい。

川を流される死体のような何かを目撃してしまった主人公は、超常現象部の先輩に助けを求める。閉塞的な家族関係のなか、もどかしい現実と嫌な夢を行き来する主人公。その先行きを先輩と川の流れが不意に照らすラストが心地よい。確かな筆致とユニークな感性が光る傑作。

山本駿平『地獄の口、楽園の門』

以前web読み切りの記事で紹介した「まぼろしは光線のような」の方の新刊。web公開された読み切りはもともと関西コミティアで出されたものということだったので、東京のコミティアに参加されるという情報を見て楽しみにしていました。明日も新刊があるようで嬉しい。

目覚めるとそこは草原。遠くに巨大な円形の物体が見える。それは多くの人間が求めながら「永久に我々には手の届かぬものだ」と語る老人は、主人公にナイフを託すのだった。抽象的な場面が力強いタッチで描かれ、見るものの目を離さない。とりわけ老人の顔の強度たるや。

『MEGA FLASH』(四畳半倶楽部)

良すぎる表紙に惹かれて手に取りました。中身もずっと表紙のようなテンションで展開して、とても楽しいです。おまけのペーパーに描かれていた「頭脳さん」というマンガもヤバかったのでシリーズで読みたいと思いました。

ある朝目覚めると、目からビームのように光が出るようになってしまった主人公。フラッシュを活かせる仕事に転職するが……。愉快でデタラメな展開が終始楽しく、グラフィックノベル的な独自のスタイルもマッチしている。お茶目なオチも可愛らしい。

『冥途』(ひとり文庫

サークルカットが可愛らしくてうまいなと思ってうかがいました。作品は思ったよりシリアスな雰囲気で少し意外だったのですが、同時にどこか爽やかさもありとても良いマンガです。

かつて「集会」で出会った友人との思い出を振り返る主人公。私たちは仲が良かったのか、あるいはそうせざるを得ない環境で出会っただけだったのか。答えを知る術は無い、それでも……。次第に輪郭を結んでいく過去に緊張感は高まりつつ、不思議と爽やかなラストが心強い。

西尾拓也/昼間『31』(鳩に学蘭)

先日完結したばかりの『夏の終点』の西尾拓也さんの本がある、と思って手に取ったのですが、もう一人の昼間さんもすごすぎる読み切り「はれたひのかさ」の方でした(この読み切りは公開当初見逃していて、4月の記事に入れるべきだったなと後で気づきました)。高度でユニークな画面作りという点では、どちらの作品も現代マンガの最前線だなと思います。

2人の作家によるネーム交換共作本。点つなぎと視線のドラマを組み合わせた実験的な画面で、あたかも視線誘導についてのマンガのような「ほっぺ」。詩的なフレーズと無人の学校の風景のモンタージュが抒情的な「転校」。両作とも儚く繊細なビジュアルが魅力的。

『Space』(日辻会)

コミティア的なマンガの一つの潮流として「嘘エッセイ」みたいなものがあると思うのですが、そのエッセンスが詰まった魅力的な作品になっています。本には作者名もサークル名も書かれておらず、これ自体が夏の日に見た幻のようでもありました。

勉強のために自分だけの空間が欲しい受験生の主人公。路地裏で営業する怪しげなレンタルルームを発見するが、そこは時間の流れがおかしい亜空間で……。エッセイ風の導入から奇譚へと展開する手際もさることながら、現実へと戻りつつささやかな変化を描くラストも見事。

絵津鼓『IRUKA2』(forbit)

少し前からコミティアでシリーズものを描かれている作家さん。商業誌でも活躍してきた方による個人レーベルということで、雑誌1回分ずつ的なペースで新刊を出されているようです。コミティアを3ヶ月に一度の不定期連載のように活用している方は結構いるイメージで、年4回という開催ペースは使い方が色々あってちょうど良いなと思います。

小学生の少年・入嘉(いるか)の日常を描くシリーズも『prologue』から数えて3冊目。学校でクッキーを配る計画がひと段落したと思ったら、素敵な同級生園田くんが登場してワクワク。長期シリーズ的なゆったりとした進行で細やかな出来事を拾う筆致には安心と信頼感がある。

長谷理菜辺『雨ときどき不運または幸運』(甘い香芹)

事前にあまり情報が得られなかったのですが、サークルカットに惹かれてうかがってみました。トーンワークを含めた画面作りが非常に達者で驚きます。

不運続きの1日。さらにコンビニでも傘を盗まれた主人公は、つい魔が刺して他人の傘を持ち帰ってしまう。悪事とは無縁の同居人と話すうち自分が情けなくなってきて……。シンプルな物語ながら絵と演出が読ませる。トーン豊かな画面はキャラの感情を映し出すようだ。

『ぬいぐるみとしゃべる人』(おわかれ会)

今回の中では一番コピー本らしいコピー本。セリフ等の文字まで手書きで、どことなく私的なムードが漂っています。コミティアでしか読めないタイプの迫力があるマンガです。

不思議な話と生々しい話、どこか切ない2本の短編を収めたコピー本。どちらも主人公だけに起こった一度きりの経験を語っているという印象を強く受ける。回想的なモノローグや画面に漂うノスタルジックなトーンも相まって、固有の出来事の描写として奇妙な迫力がある。

マシュー『CUT ME, PLEASE!!』(夜家)

コミティアの醍醐味、変わった作りの本。A4全綴じ(!)を読者が裁断することでA5右綴じになります。中身も色々と切り取り線に連動していて面白いです。結構ページ数があり、ザクザク切っていると妙な罪悪感も湧いてきます。

四方がホッチキスで綴じられたA4の紙の束。切り取り線に沿って余白を断つとA5右綴じの本になる。恐ろしくユニークな造本(本なのか?)。内容も画面も断ち切ることに関わって面白い。当然(?)余白部分にも描き込みがあり切ると作品が破壊される気がして困るが、その迷いをこそ断ち切るべきなのだろう。